「別冊幻影城」創刊のことば

1841年、アメリカで一人の素晴らしい文学者の手によって、探偵小説は産声を上げた。その人の名は、エドガァ・アラン・ポー。130年前のことである。そして、探偵小説はヨーロッパで見事に開花結実した。
わが国でも明治中葉、黒岩涙香が探偵小説を翻案紹介したが、結実せずに終わるかに見えた。だが、大正12年、江戸川乱歩の登場以後、わが国の創作探偵小説は、50年以上の歴史を数えるに至った。
この50余年、実に多くの先達がポーに学び、挑戦した。<幻影城>はこの間の作品発掘と、作家再評価の場として創刊した。この創刊を契機に、探偵小説は新しい方向を目指す機運が探偵文壇にもようやく高まりつつある。
新しい時代の探偵小説の誕生のため、戦前戦後の名作を厳選して、作家別に収録すると共に、埋もれた作品を再評価し、読者に提供することを目的として、<別冊幻影城>を新たに創刊した。
この別冊では、従来の各全集に見られない新しい試みとして、各作家を歴史的に位置づけるための作家論、関係者エッセイ、インタビュー、書誌などに多く頁をさいた。識者の御支援を切に願うものである。

昭和50年9月

<別冊幻影城>編集部


「別冊・幻影城」目次リスト

別冊幻影城1 / 横溝正史 本陣殺人事件・獄門島
別冊幻影城2 / 日影丈吉 真赤な子犬・内部の子犬
別冊幻影城3 / 松本清張 ゼロの焦点・珠玉短編集
別冊幻影城4 / 土屋隆夫 天国は遠すぎる・天狗の面
別冊幻影城5 / 江戸川乱歩 パノラマ島奇談・陰獣
別冊幻影城6 / 仁木悦子 猫が知っていた・林の中の家
別冊幻影城7 / 高木彬光 誘拐・わが一高時代の犯罪
別冊幻影城8 / 横溝正史II 犬神家の一族・黒猫亭事件
別冊幻影城9 / 鮎川哲也 黒いトランク・準急ながら
別冊幻影城10 / 黒岩涙香 幽霊塔・無惨・紳士のゆくえ
別冊幻影城11 / 横溝正史III 悪魔の手毬唄・鴉
別冊幻影城12 / 樹下太郎 銀と青銅の差・「期待」と名づける
別冊幻影城13 / 蒼井雄 船富家の惨劇・瀬戸内海の惨劇
別冊幻影城14 / 横溝正史IV 八つ墓村・蜃気楼島の情熱・他
別冊幻影城15 / 岡田鯱彦 薫大将と匂の宮・樹海の殺人
別冊幻影城16 / 小酒井不木 疑問の黒枠・恋愛曲線・他

「別冊幻影城」未刊行リスト

飛鳥高 細い長い糸・疑惑の夜
鮎川哲也 黒い白鳥
海野十三 振動魔・三人の双生児
大阪圭吉 死の快走船・とむらい機関車
大下宇陀児 石の下の記録・虚像・蛭川博士
香山滋 人見十吉シリーズ・恐怖島・他
葛山二郎 赤いペンキを買った女・他
瀬下耽 柘榴・女は恋を食べて生きている
高木彬光 刺青殺人事件(初稿)
多岐川恭 異郷の帆・イブの時代
塔晶夫(中井英夫 虚無への供物(初稿)
結城昌治 郷原警部三部作
蒼井雄 狂操曲殺人事件・最後の審判・霧しぶく山・
黒潮殺人事件・第三の殺人者・三つめの棺・
犯罪者の心理・執念・感情の動き・エッセイ
角田喜久雄 高木家の惨劇・奇跡のボレロ・
霊魂の足・悪魔のような女・笛吹けば人が死ぬ
作品の多い作家は複数冊数、作品の少ない作家については複数人で一冊とし、
「別冊幻影城」として刊行予定にリストアップされていたのが、90冊分あったという。


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